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読書とは、「最高のVR体験」

僕は読書が好きです。漫画や映画とは違い、小説の世界では見る側に与えられるのは文字だけです。文字だけでキャラクターたちの表情や仕草などを自分自身の頭に描かねばなりませんので、取っつきにくい部分があると思います。ところが読書に慣れていくと、文章から想像する読者のイメージ力、想像力も増強されていき、小説の場面がよりリアルで臨場感のあるものへと発達していきます。そうするとますます読書が楽しくなる。こうなると好循環です。

脳科学者たちによると読書は最高の脳トレにもなるのだそうです。文章に描かれたリアルな色や景色、容姿や肌触り、果ては匂いや味覚までも、脳は読者に追体験させる。この追体験は脳のあらゆる部分を稼働させる高度な脳トレになっているそうです。VR機器が人気のようですが、僕は個人的には読書こそが最高の疑似体験ではないかと思っています。

一つの本を読むという行為は、一つの季節が過ぎ去っていくのに似ています。本を読み終わった夜、今あるこの瞬間が、二度とない、かけがえのない夜に感じられます。まだ世界が神秘に満ちていた幼少期の頃のような、特別な夜。一度、何か名作を読み数年後、またその本を手にとって見て下さい。当時の記憶が作品の世界観を伴って、過ぎ去った季節を鮮やかに思い出させてくれますよ。

 

今日はおすすめの本は椎名誠「哀愁の町に霧が降るのだ」です。

「あらすじ」

東京・江戸川区小岩の中川放水路近くにあるアパート「克美荘」。家賃はべらぼうに安いが、昼でも太陽の光が入ることのない暗く汚い六畳の部屋で、四人の男たちの共同貧乏生活がはじまった。アルバイトをしながら市ヶ谷の演劇学校に通う椎名誠、大学生の沢野ひとし、司法試験合格をめざし勉強中の木村晋介、親戚が経営する会社で働くサラリーマンのイサオ。椎名誠と個性豊かな仲間たちが繰り広げる、大酒と食欲と友情と恋の日々。悲しくもバカバカしく、けれどひたむきな青春の姿を描いた長編。

昭和期後半に絶大なる人気を誇った小説家、エッセイスト椎名誠の代表作です。型破りで破天荒を極めたような椎名誠小説の中でも異彩を放つ作品です。まず、この作品、前書きが5つほどあります。さらにこの小説の中盤では「中書き」という作者のエッセイがある。基本的な小説の内容は椎名誠の青春時代の記憶を扱ったものなのですが、現在のことも過去のことも、「中書き」と似た本編と関係ない内容を含めて「ごった煮」のように時系列がランダムに描かれる。普通は混乱してしまいそうですが、これが不思議と調和が取れていて、読めば読むほどとにかく面白い。破綻していない。型破りに見える作者ですが実は、天才的な手腕の持ち主なのかもしれません。

読後感は非常に爽やかな青春小説のものです。胸の奥を暖かな風が吹き抜けていくようです。おすすめですよ。

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